「もう寝る時間でしょ!」
その夜、思わず大きな声を出してしまった。
夫は出張中。
下の子たちを寝かせて、自分も早く寝ようと思っていた。
でも、長男が自分の部屋に行った様子がない。
リビングへ行くと、長男がタブレットを見ながらくつろいでいた。
「先に寝る準備しておいてね」って言ったはずなのに。
その瞬間、イラッとした。
早く寝かせたくて、家事も片づけも急いで。
それなのに、なんで?
「何してるん!何時に寝るつもり? 一人で寝る部屋ができたからって、夜更かししていいとは言ってない!」
気づけば、感情のままに矢継ぎ早に言葉が出ていた。
🕯️ 怒りの奥にあった「なんで分かってくれないの」
長男は険しい顔をして言い返した。
「夜更かしの何がそんなにダメなん? 他の子はもっと遅いのに」
そこから、どんどん不満があふれ出した。
「この家、禁止事項が多すぎる」
「他の子はYouTubeも自由、ゲームもスマホも持ってるのに」
「僕だけ、できないことが多い」
📱 我が家のルールと、長男の気持ち
確かに、我が家には我が家のルールがある。
YouTubeは音楽を聞いたり工作などで作り方を参考にする“学習系”だけOK。
ゲーム実況やエンタメ系は、親に確認してから短時間だけ。
ゲームの時間は、1日90分まで。
でも、お風呂の声かけで一度で動けたら30分延長――そんな小さな“ごほうびルール”もある。
今のところ、キッズスマホはまだない。
(物の管理が課題で、紛失が心配なのも理由のひとつ)
タブレットも学校支給のもの以外は置いていない。
「みんなはもっと自由やのに、なんでうちはあかんの?」
そう言う長男の気持ちも分かる。
でも、親としては「安心して楽しめる範囲で」という想いから決めたルールだった。
それが、彼にとっては“禁止事項ばかりの家”に見えていたのかもしれない。
💬 「僕はダメなやつやから」こぼれた本音
「僕はダメなやつやから。自分が嫌いやねん」
小さな声でそう言われた。
――その言葉を聞いて、一瞬ヒヤッとした。
長男は小1のころにも「自分なんて…」と自己否定の言葉を口にしたことがあった。
その時、発達の困りごとに気づくきっかけにもなった出来事。
でも最近は落ち着いていると思っていた。穏やかになったし、成長した。
“またあの時に戻ってしまった…?”
“それとも、ずっと心の中ではそんなふうに思っていたのか?”
ほんの一瞬で、頭の中がぐるぐると回った。
わがままを言っているんじゃなかった。
「認めてほしい」「自由にしたい」よりも、
「自分はダメなんだ」という気持ちの方がずっと大きかったのかもしれない。
私は慌てて伝えた。
「ダメなんかじゃないよ。いいところもいっぱいある」
でも長男は、涙をこぼしながら続けた。
「できるところもあるけど、できないところも多い。差が激しいねん。僕は凸凹だから。でも凹が多すぎる。だからみんなに注意されてばかり。」
その言葉を聞きながら、ハッとした。
私は“できない部分をなんとかしよう。平らにしよう”とは全く思ってない。
でも彼が困らないようにしたくて必死だった。
けれど本人は、“できない自分だからこんなにたくさん注意されるんだ”って苦しんでいたんだ。
「全部を直してほしいとは思ってないよ」
「ただ、将来困らないように、挨拶とか返事だけはできるようになってほしいと思ってる」
そう伝えると、少し落ち着いたようだった。
🌙 学校での出来事と、母の言葉
そこから話は学校のことへ。
「“きもっ”とか言われる」
「“3メートル離れろ〜”って言われた」
「みんなに言われるの?」と聞くと、「2人だけ」と答えた。
「じゃあ、クラス30人のうち2人だね。私だって、全員には好かれてないよ」
私は続けた。
「私だって仕事してて、全員に好かれてるわけじゃないよ。
でも、その人にわざわざ関わりに行ったりしない。
挨拶だけすれば十分。それ以上は無理に話さなくてもいいんだよ。」
「大人でもそういうことってあるんだよ。」
そう伝えると、長男は少し驚いた顔をしていた。
子どもの彼にどこまで伝わったのかは分からない。
でも、「全員仲良く」「みんなと友だちでいなきゃ」って思わなくてもいい。
しんどいときは、無理して付き合う必要はない――そう伝えたかった。
🌃 夜更かしと思っていたけれど
あとになって思えば、
“夜更かし”をしたいというより、眠れなかったのかもしれない。
タブレットを見ていたのも、ただ気持ちを落ち着けたかったのかも。
反抗期なのか、思春期の入り口なのか、
最近はあまり学校の話をしなくなった長男。
それでも、あの夜はちゃんと話せてよかった。
彼は「嫌なことを嫌」と言うのが苦手だ。
優しすぎるのか、それとも言葉にするのが難しいのか。
これは療育での面談でも、先生から心配されていた部分だった。
思っていることを我慢して、
気づけば心の中にモヤモヤがたまってしまう――
そんな彼の“心の夜更かし”だったのかもしれない。
🌙 わがままじゃなくて、心のSOSだった
気づけば夜の11時を過ぎていた。
話しながら泣いたり、沈黙が続いたり。
それでも、あの時間はとても大切だったと思う。
わがままだと思っていた態度の裏に、
「僕はダメなんだ」という小さな声が隠れていた。
叱ることもあるし、感情的になることもある。
でも、ちゃんと話せば伝わることもある。
あの夜、長男が泣きながら話してくれた本音を、私はきっと忘れない。
💬 あとがき
親としてのルールは必要。
でも、そのルールが「安心」ではなく「制限」と感じてしまうこともある。
だからこそ、時々こうして**“気持ちを話す夜”**が大事なのかもしれない。
わがままに見えたその行動の裏に、
本音が隠れていることを、またひとつ教えてもらった気がする。


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