小さな出会いが、私の考え方を変えた
長男がまだ1歳くらいで、よちよち歩きを始めたばかりのころ。
私は近所をゆっくり散歩していました。
そのとき、通りがかりの年配の女性に話しかけられて、
「立ち話もなんだから」と、家に招いてくれたんです。
一軒家のそのお宅に入って、驚きました。
玄関から見える部屋に、ほとんど何もなかったんです。
テーブルとテレビ台、そしてテレビだけ。
雑貨も、カレンダーも、収納棚も見当たらない。
一目で「モノが少ない」とわかる空間でした。
「モノ少ないですね」と言うと、
「独り身だからね。どんどん片付けてるんだよ」
と笑顔で答えてくれました。
ゆで卵と、心の豊かさ
「出してあげるもの、何にもないけど、ゆで卵なら作ったろ」
そう言って、キッチンで卵をゆでてくれたその方。
本当に何もない部屋、
だけど、そこには優しさが満ちていました。
「モノが少ないほうが、小さい子がいてもいいよ。
ケガのリスクもないし、触られて困るものもない。
自由に遊ばせてあげられるでしょ」
その言葉が、胸に残りました。
「赤ちゃんがいるから危ないものは片付けなきゃ」
「でも家の中はモノであふれていて、どうしたらいいの?」
そんなふうに悩んでいた私にとって、
「最初からモノがなければいい」
という考え方は、まさに目からウロコでした。
10年後、思い出す言葉
あれから10年。
長男には発達障害の診断があり、
私は子育てを一から学び直すような日々を送っています。
その中で知ったのが、
「視界に入るものを減らすと、刺激が少なくなり、集中しやすくなる」
ということ。
部屋がすっきりしていると、子どもも落ち着きやすい。
それを知って、ミニマリストの動画を見始めたとき、
ふと、あのときのおばあちゃんのことを思い出したんです。
あの人は、自分のためだけじゃなかったんだな。
誰が来ても、子どもが来ても、
みんながのびのび過ごせるように、自然と整えていたんだな。
「終活」という優しさ
子どもたちが巣立ったあと、
私のモノなんて、きっと彼らには必要ないかもしれない。
男の子だし、母の持ち物にそこまで執着しないかなと思う。
だからこそ、今から少しずつ「終活」を意識し始めています。
できるだけ身軽に。
本当に大切なものだけを、丁寧に残していく。
未来の自分も、まわりの人も、
少しでも生きやすくなりますように。
10年前にいただいた、あのゆで卵のように。
必要最低限の中に、あふれる優しさが宿るような。
そんなふうに生きていけたらと思っています。
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